KONAMI

NOVELS

ジルコン年代記

61

絆の効果

絆の効果

アレンとアランの作戦を見つめる者……ブレイブで農家を営むアルフリードだ。なぜ農家が戦場に?と疑問を持つ者もいたが、彼は平然とそうした視線を受け流した。

(まあ、そう思われるのは分かる)

アルフリードは元々、フリーダムの暗殺者だ。仕事現場を他人に見られ、引退を決意したが、今でもそのスキルは彼の血肉になっている。

(ジルパワーを無力化する液体をジルパワーで運べるのか?俺なら……いや、関わるのはよそう……)

つたなくも勢いのある二人に、ついおせっかいを焼きそうになってしまう。

自分がここに来たのは彼らのような若者を見守り、その成長の助けとなるためだ。彼は気配を消し、そっとその場を離れた。状況に応じて、あちこちに手を貸すために。

一方、グローリーのクリス・グロリアはアレンとアランの作戦をそばで聞き、目を輝かせた。

「ヤツの注意は俺が引きつける!その間にとっておきの攻撃をよろしくな!」

連れていた馬に飛び乗り、竜の方へと走っていく。荒ぶる竜の二つ首がその動きに気を取られ、ぐいん、と首を陸地に向ける。

「今だ!」

アランは「ジルコンやジルパワーを封じる液体」を生成し、それをアレンが自身のジルコンギアであるフラスコに移した。幸運にも、アルフリードが危惧していた事態は起こらない。ジルパワーを封じる液体を入れても、アレンのギアは力を失うことなく、自身の効力を発揮するときを今か今かと待っている。

「これをアイツに飲ませれば……!」

「ならばその役目、我々が」

二人の前に、数名の男女が進み出た。一見、非戦闘員といった見た目だが、違う。彼らは皆、異形を従えている。

「竜にやられて終わり、そんなのは嫌だろう?僕の力を受け入れれば、まだ戦うことができるさあ、どうする?」

ブレイブのニグレレの呼びかけに、この地で命を落とした者たちの霊体が集まった。志半ばで息絶えたものの、彼らの意思はまだ生きている。家族を、友を守るため、肉体を失ってもなお、彼らの想いは現世に影響を及ぼしていく。

「手を貸して!……逝くのを手伝ってあげる」

「あなた達の力無駄にしないわ、借りるね……」

ピースフルのメイフ・カラミティアとブレイブのクロエも同様の力を発動させた。次々と死者たちが力を取り戻す。

復活したのは人の魂だけではない。

「この戦いの記録は必ず歴史書に刻まれるだろう。大災の竜、貴様を打ち倒した未来、その力を呼び出せる日が楽しみだ」

「護国英霊の皆様、ここがHoleです。御武運を……」

「お前達は不屈の戦士だ!その魂に刻まれた力を俺に見せてくれ!パワー!!」

ブレイブのヴィクター・シェードワールはミノタウロスを召還し、ピースフルのシャルル・トワネットとソマノフは骸骨戦士たちと意思を交わして一時の軍団を形成する。

「私も闘えます、みなさん、ついてきてください!」

フリーダムのゴールド・マリーがアレンからフラスコを受け取り、異形の集団を先導した。

「竜殺しのスキルを持つ私がこの戦いに出なくてどうする……この時を待っていた!!」

「こんな楽しそうなパーティーは初めてだよ。朽ちるまで踊り騒ぎ倒しちゃうよー!」

ゴールド・マリーのジルパワーは戦闘向きではない。そのため、ピースフルのアドルフィーナとフリーダムのルカ・ヴェルデが即座にフォローに回った。

「ぴょんだぴょん!こっちだぴょん!」

三人を一匹兎が先導する。四人は一丸となって、陸地に接近した竜に近づき、その口の隙間にフラスコを投げ込んだ。

――グァッ!!

一瞬、竜の二つ首が大きくのけぞる。竜がこれまでに人々から吸い込んだジルパワーが体内で無効化されたのだ。まるで一瞬にして、飢餓状態に陥ったように、竜の二つ首が色あせる。ぬらぬらと力強く輝いていた鱗は精彩を欠き、狂暴な炎で燃えていた瞳からは力が抜けた。

くたりと竜の二つ首が力なく大地に落ちる。

「あまり長くは持たねえぞ!」

アレンが叫んだ。血液のように、彼は竜の体内にアランの生成した液体を巡らせている。

計画自体は成功したが、圧倒的に量が足りない。液体が触れた部分のジルパワーを無効化できても、それが通り過ぎれば竜の肉体は力を取り戻す。

「胴体まで流せれば……くっ、無理か!」

心臓に液体が届けば、と願ったが、そこまでうまくはいかない。液体は少しずつ二つ首に吸収されて減っていき、やがてすべてが消えた。

「失敗か……っ」

皆、死力を尽くしている。あちこちで戦士たちが倒れ伏し、立ち上がる気力のある者はもうほとんどいない。ここで倒し切れなければ、竜は再び力を取り戻してしまう。戦士の屍を飛び越え、その先のオルフィニア大陸へと。

家族も、恋人も、仲間も、すべて蹂躙される。それを避けるために、自分たちはここに集ったというのに。

「ミルム先輩、すみませ……」

力を使い果たし、息を切らせながらアレンがうめく。……だが。

「いいや、十分だッ!!」

がくりと膝をついたアレンとアランの肩を、誰かが叩いた。そしてその両脇に、二人の男が立つ。

「お前たちが、皆が、全力で竜の力をそいでくれたッ。皆で作った好機だッ。それは必ず、俺たちが生かしてみせるッ!」

「あなたたちは……」

アレンとアランは呆然とつぶやいた。

ブレイブ出身の彼らは当然知っている。目の前に立つ男たちが誰なのかを。自分たちの住む国が、誰を頭上に掲げているのかを。

「四天獅……!!」

「ああッ、そうだ!」

到達の四天獅リーチが吠えた。その隣に百錬の四天獅レオが立つ。

「これまで皆さんに頼ってしまってすみません。力を蓄えなければ、あの竜には届かないことは明らかでしたので……」

「皆なら必ずや生き延びるッ。そう信じていたぞッ!」

朗々たる宣言に、アレンたちは笑った。

リーチの言う通りだ。ここに、ただ守られるだけの者はいない。なぜ今まで側にいてくれなかったのかと彼らを責める者も誰もいないのだから。

「みんなで、削りました……後は頼みます!」

「任せておけッ!」

リーチが迷いなく請け負った。

「レオ!君の作戦に乗ったッッッ!!俺はこのブレイブ……いや、この世界が大好きだ。予言だか何だか知らんが、あのどデカい竜のせいでこの世界が終わるなんてごめんだッ!」

「ええ、私もです」

「俺は、刺し違えてでもヤツを仕留めるぞッ!!!俺達がガキの頃から密かに訓練してきたあの秘技をついに披露する日が来たようだッッ!」

「アレをするのですね、リーチ」

「ああ、お見舞いしてやろうじゃあないかッ!!まずは、俺が先に行くッッッッ!」

リーチは渾身の力で大鎌を薙ぎ払った。

ごう、と強風が吹き荒れる。仲間に追い風をもたらす、彼のジルパワーだ。

その風に乗り、リーチは駆けた。草原を疾走する猛獣のように。

「いきましょうリーチ。私達の力を発揮するときです」

それにレオが合わせた。自身の槍を構え、渾身の力で一掃する。

「さあ、竜よ見るがいい!私たちクアドリオンは伊達じゃないぞ!!……煌々と燃え盛れ、『炎獅子』!!」

槍の軌道に合わせ、灼熱の炎が放たれる。炎を自在に操るレオのジルパワーはまっすぐリーチに迫る。

「オオオオオオオッ!!」

その炎を絡めるように、リーチが再度ジルパワーを放った。

炎が風に絡み、溶けあう。

風に乗ったのではない。二人の力は融合し、「炎の風」になる。

辺りを焼き尽くすほど膨れ上がった炎は巨大な獅子へと形を変え、大口を開けて竜の二つ首に食らいついた。

――ギャアアアアアアアアアアオオオオオオオオ!!

バキバキと鱗が砕かれ、肉が焼かれ、竜が絶叫した。

食らいついた炎の獅子はその首から離れない。黒煙が上がり、あふれる血と体液が炭化して落ちてもなお。

――ガ、ガ、ガァ……。

不明瞭な断末魔を上げ、竜の二つ首はどうと倒れた。

「やったああああああっ!!」

見ていたアレンたちが喝采を上げた。

何日にも及んだ苦しい戦いの中、ついに人間が一つ目の勝利を挙げた瞬間だった。