KONAMI

NOVELS

ジルコン年代記

57

最前線への贈り物

最前線への贈り物

ピーカブーが振り返ると、王立ジルコニア学園の学園長グリードと教師ナラクに誘導され、学園の生徒が十名ほど、到着するところだった。

皆、緊張で顔をこわばらせている。ジルパワーに目覚めたばかりの者や、ようやく使い方を分かってきた者……。皆、人生経験を積むのはこれからなのだ。

「待たせましたね」

グリードがピーカブーに言った。

「学園の覚醒者を集めてきましたよ。ヒヤシンスを起動する際は、我々も力になりましょう」

「ああ、感謝する」

「らしくないですね、ピーカブー。いつも不遜なあなたはどこに行ったのです?いつもみたいに笑ってみせなさい」

「そりゃどうにも難しい。この状況では……」

「よかった、間に合ったな!」

突然、辺りがにぎやかになった。

次は何だと振り向くと、新たな一行がぞろぞろと歩いてくる。

先頭にいるのはピーカブーもよく知る男だった。

「ヘンリー!?貴様がなぜここに。役に立たんと追い返されたか!?」

議長ウィリアムの幼馴染、ヘンリーだ。もともと最下層で生きる民の出身者だったこともあり、中央情報局の局長を務めるようになった今でもヘンリーは上品とは言えない。本人も、自分の過去を否定するまいと、あえて粗野な部分を残したようなところがある。

元々ごろつき連中を束ねていたピーカブーと妙にウマが合うのもそうした事情によるものだろう。路地裏で密談しあう不良同士、といった雰囲気で、ヘンリーはピーカブーに拳を突き出した。反射的に拳を軽くぶつけたものの、ピーカブーはまだ困惑したままだ。

「最前線にいたはずだろう。貴様に限って、逃げてきたわけではないだろうが」

「当然だろうが!目的があって、こっちに来たのさ。途中でピースフルに寄ってきたがな」

「ピースフル?今は教皇もいないのに、誰に祈ったって言うんだ?」

「そうじゃねえ。色々状況は動いてんだよ」

ヘンリーは素早く自分の知る情報を共有した。

「ピースフルの外交官にアルフェラって男がいるだろ。数か月前、お前が鞭打ち苦行者たちを向こうに連れて行ったとき、会わなかったか?」

「んー……ああ、会ったな!最強占い師だろう。二択なら必中だという……」

「それだ。奴とピースフルの修道院長が先導して、英雄教や神話にまつわる膨大な資料を全部調べた。その結果、『竜は、ジルコンを糧とする。しかし、その糧は毒にもなる』と分かったそうだ」

「なんと」

「アルフェラはジルパワーを使い果たして生死の境をさまよってたが、ここにいるクナラがアギュウスをぶっ放して復活させた。……ああ、この辺は『どうやった?』なんて聞くなよ。悠長に説明している時間がねえ」

「あ、ああ」

「重要なのは竜の性質の話だ。中途半端にジルパワーの覚醒者が集まっちまうと、竜にそれを吸われて錯乱する。だが最大数を集めて、一斉に攻撃すりゃ、俺ら人間にも勝機はあるってことだ」

「…………」

「いつまでも呆けてんじゃねえぞ、ピーカブー!さっさと準備しろっつってんだ!」

「……いくつか、聞いてもいいか」

じわじわと胸中から沸き起こる思いを感じつつ、ピーカブーはヘンリーに尋ねた。

「まだ、最前線で皆、戦闘中なんだな?」

「当然だろ。アイツらが簡単にくたばるか!」

「多くが生きてる。……だが、俺様は動いていいんだな?」

「むしろ今、動いてもらわなきゃ困るっつーの」

「貴様は今、戦場を『視』ている。ときが来て、覚醒者が竜から離れた瞬間、貴様が合図し……俺様たちはヒヤシンスをぶっ放す!それでいいんだな!?」

「そーそー!その通り!」

「ハッハッハッハッハ!!最高じゃないか、願ってもない!!」

――仲間の全滅を待たずして動いてよい。

なんと最高の知らせであることか。

その場にいる全員が歓声を上げた。拳を突き出し、飛び跳ねた。

「全員、準備しろ!装填するぞっ!」

ジャジャジャカジャカジャカとピーカブーが楽器をかき鳴らした。それに、待機していた者たちが続いた。

「これで終わりなの?いえ、まだ前線で戦っている人達がいる。この希望を私の音楽でみんなに伝えたい」

歌うようにつぶやき、ガーネット・シュガーが持ち前の鍵盤楽器を鳴らした。ピーカブーの旋律に、彼女の繊細な演奏が絡み合う。

「この歌声が、終わりを告げ、新たな始まりを紡ぐ。私たちの絆は、永遠に!」

「このために集ってくれた者たちもいるものな。生徒の未来をここで終わらせはしない!」

エリナ・フォン・セレスティアとリーネ・バルロッサがそれに続いた。

「いつでもおいで♡」

「これこれー、最高に楽しいよ」

エーテリアル・ジェネシスとヤ・マーケンもまた、ジルコニア学園の生徒たちと共に自身のジルパワーを最大に高めた。

辺りに美しい音色が響く。集った者たちの想いが共鳴し合い、増幅する。

彼らのジルパワーを受けてブタちゃんは光り輝き、それに呼応し、極大魔法砲台ヒヤシンスがうなり声を上げた。ごうごう、ごうんごうん、とジルパワーが集まっていく。凝縮し、巨大な砲弾へと形を変える。

「複数の攻撃!竜にダメージが入ったぞ!ウィリアムが全員、距離を取らせた!いまだ!!」

ヘンリーが最前線を「視」て、刻一刻と移り変わる戦況を報告する。

「さあ大災の竜よ。俺様とブタちゃんの音楽に酔いしれろ!!」

ピーカブーが高らかに宣言する。

「撃てえええええええええええええええ!!」

ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!

一瞬の無音の後、爆音と閃光が一気にはじけた。

周囲に生まれた爆風で、人々は大きく跳ね飛ばされる。素早く受け身を取って、着地し、ピーカブーは再びヒヤシンスに駆け寄った。

「まだまだ行くぞ!貴様ら、全員、配置につけ!!」

「は、はい!!」

「ハッハッハッハッハッハッ、やるぞおおおおおお!!」

つい先ほど意気消沈していた男が何という変わり身の早さか。

集った者たちは顔を見合わせ苦笑し、彼に続かんとばかりに再びそれぞれ、力をため始めた。