KONAMI

NOVELS

ジルコン年代記

新たに迎えた仲間

新たに迎えた仲間

……「その日」、勇気の国ブレイブはてんやわんやの大騒動だった。

長らく書簡のみのやり取りしかしてこなかった自由の国フリーダムから使者が訪れるというのだ。これが緊急事態でなくて、なんだというのか。

この件に関しては、数日前に書簡で第一報が送られてきていた。かの国が統治する辺境の街「ノル・ヴェイル」が大災の竜に襲われたという。

獣人の里に近いその街は山河に囲まれ、フリーダム本土と地続きでありながら、陸路は整備されていない。完全に孤立しているため、向かうには船で陸沿いを航海するしかなく、「陸の孤島」という呼称がしっくりくる。

……そんな小さな街を、なぜ大災の竜が。

真相を知る者は誰もいない。民にとっても、青天の霹靂だっただろう。

竜の鋭い爪や牙、巨大な尾による物理的な攻撃と、溶鉄のブレス。

強大な力によって町は破壊され、命からがら逃げだした民は百人にも満たなかったと聞いている。

……ついに来たか、と思った。

一年以上前、The Hole付近の島国を一夜にして滅ぼした大災の竜がついに行動を開始したのだ。

各国がバラバラに対応するには限界がある。自国の安全を優先するあまり、他国を見殺しにすれば、次に襲われるのは自分たちだ。百年間眠っていた竜はおそらく極限まで腹を空かせており、一つや二つ、国を飲み込んだだけでは満足しないに違いない。

「でも、まだ負けじゃないわ」

王城にある謁見用の「獅子の間」で、シャインはつぶやいた。

「もちろん、そう」

即座に斜め後ろでうめき声が聞こえた。声質は可憐な少女のものだが、その奥に潜むのは混じりけのない殺意と怒りだ。振り返らずとも、シャインには声の主が誰だか分かる。

「大丈夫ですわ、ロゼッタ。あなたの悲願は必ず果たせます」

シャインの後ろに一人の女性が立っていた。つい先日、仲間に加わった、頼もしき黒い甲冑の女性だ。

シャインたち、この場にいる他の者は春の装いだが、彼女、ロゼッタだけは様子が違う。小柄な体躯に似合わぬ大剣を背負い、ドクロの仮面を側頭部につけている。それだけでも威圧的だが、何より異彩を放っているのは左目だ。目の奥から根を張っているように、ロゼッタは真っ青な薔薇の義眼をはめていた。

「竜はボクが殺す」

噛みしめたロゼッタの唇から白い息がこぼれた。彼女の感情に呼応するように、左目の薔薇に霜がおりた。唇が紫色に変わり、カタカタと小刻みに震える様子はまるで極寒の地に一人で立っているようだ。

ロゼッタの背負う業はこの世界の誰とも違う。生まれながらにして体温を奪われる呪いをかけられた彼女は母親の命と引き換えにして生き永らえた。命はつないだが、彼女の心は凍てついたままだ。覚醒したジルパワーは手に触れた者の熱量をコントロールし、感情の制御に失敗すれば自分自身を凍らせる。

そもそも、なぜロゼッタが生まれながらにして極寒の呪いを背負ったのか、誰も分からない。

ただ、彼女の生まれた村に住む老婆はこの呪いを大災の竜によるものだと言ったそうだ。その一言を信じ、ロゼッタは大災の竜への憎しみを募らせ、強くなった。剣を手に、死の恐怖も傷の痛みも凍らせて、ただ大災の竜を討つその日を夢見て。

(悲しい強さ……)

おそらく、今この地上で、大災の竜が復活したことを喜んでいるのは彼女一人だろう。百年の眠りから覚めた竜を永遠の眠りにつかせるため、彼女は凍てつく目に青い炎を宿らせる。

その強さを見出したメテオランテ・エアロ隊の隊長<メテオランテ>は、ロゼッタをシャインに紹介した。そしてシャインは彼女こそ探し求めていた竜騎士団「ジェルジオの槍」に必要な人材だとして、騎士団長に任命した。……今、ロゼッタの元で「ジェルジオの槍」はめきめきと練度を増している。

「ともに世界を守りましょう。そのために対話の道は示さなくては」

「そういうのは苦手だ、ボク。話し合いは陛下に任せるよ」

「ええ、適材適所で行きましょう」

仲間に恵まれていることを実感し、シャインは深呼吸した。

今回は、フリーダム側から連絡してきてくれた。訪れる使者がかの国の最大派閥を率いる男の意思を伝えてくれるだろう。

「話し合いですまなくなったら、俺の出番ですね!」

うきうきとした声がその場に割り込んだ。髪をツーブロックにし、びしっと衣服を正した青年が歩いてくる。

「腕が鳴ります。このためにずっと鍛えてきたんですから」

「クナラ」

つい先日、四天獅の一人に加わった男がロゼッタの隣に立つ。四天獅は華やかな立場だが、危険も多い。大小さまざまな戦いに参加しては、先頭を駆ける必要がある。

そのため、どうしても役目を全うできない事態も起きた。

戦死は言うまでもなく、十割の力を発揮できないと見なされた際はその座を退く決まりになっている。席が空けば都度「四天獅決定大会」が開かれ、武芸に覚えのある者が覚悟を持って参加する。ある種、参加者同士が技を磨き合う武術大会の役目も担っていた。

クナラはつい先日行われた決定大会で優勝した。からりとした性格とまっすぐなまなざしを持ち、軽やかに勝利を築き上げたのだ。まだ四天獅としての活動実績はないが、きっとこれからブレイブの剣となり、民を守ってくれるだろう。

「頼りにしていますわ」

シャインは本心から微笑んだ。

そして、これから起こるであろうことに想いを馳せた。

入れ代わりの激しい四天獅の中で、「到達」のリーチだけは不動だ。シャインの古い仲間だからではなく、実力でその座を維持している。

この日、彼を港に派遣したのはブレイブにおける最上の敬意の表れでもある。彼が戻ってきたとき、ブレイブに新たな風が吹くだろう。

「知の大番頭様、到着いたしました」

朗々たる声と共に扉が開く。「到達」の四天獅リーチの案内で、客人が到着したのだ。シャインを筆頭に、この国の根幹を担う幹部たちの視線が一斉に扉に集中し……。

「おぉ」

ざわめきが大気中を伝った。