NOVELS 小説
- 第2話以降
第45話
撤退の先に……
大きなボードで波遊びをする子供のように、大剣に乗った男が風の波に乗って駆け付けた。
「ミスター!?」
ブレイブの船から、声が飛んだ。誰よりも早く、「彼」を見つけ、シャインが声を上げたのだ。
「生きてた……生きてた!生きてたぁ!」
「おうとも、レディ!そう簡単にはくたばらんさ!」
ミスターメテオランテは乗っていた大剣を手に取ると、強烈な一撃を竜に与え、その反動を利用してブレイブの船に着地した。
「土産だ。詳しい話はまた後で」
シャインに三つの宝石を渡し、ミスターメテオランテは再び空に舞い上がる。
「しんがりはオレに任せろ。みんな、撤退撤退!」
「ミスターメテオランテ、いいところに来ました!」
そのとき、甲板にいた「百錬」の四天獅レオがミスターメテオランテの大剣に飛び乗った。
「おおおお!?」
「突然現れて、いいところを全て持っていくなど許しませんよ。私もお供します」
「はああっ、重いんだが!?」
「それはもう、鍛えていますから」
「褒めてねえ!」
じたばたと暴れるが、身のこなしはレオの方が上だ。難なくミスターメテオランテを抑え込み、彼は持っていた槍を構えつつ、シャインにうなずいた。
「ここは私たちに任せて、陛下は総指揮を」
「う、うん。えっと……ほどほどにね」
「お任せを」
被っているドクロの面の奥で、レオがぱちんとウインクをした。四天獅の一席に座りつつ、今まで活躍の機会がなかった彼だ。正直、暴れたくてうずうずしていたのだろう。
ミスターメテオランテの飛行力と機動力はブレイブ一だが、攻撃力では戦士に劣る。今も、甲冑一つ身に着けておらず、乗っている大剣以外の武器はない。
一人がしんがりを務めた場合、おそらく彼の生存は不可能。それが分かったからこそ、レオはミスターメテオランテの背に飛び乗ったのだ。空を飛ぶことはできない代わり、「百錬」の名にふさわしい技力でレオは敵を一掃する。
「皆の逃げる時間を稼ぎますよ、ミスターメテオランテ。団長も生きていてくれましたしね!」
レオの視線が先発隊の船に向く。乗っているのは同胞「到達」の四天獅リーチと、ロゼッタだ。竜騎士団「ジェルジオの槍」にて、レオはロゼッタの下で戦ってきた。長く行方不明だった団長の帰還を彼は心から喜び、奮起した。
「我々で竜の注意をひきつけます。さあ、飛んで!」
「オレは馬車か何かか、旦那!?」
抗議しつつも、ミスターメテオランテは恐れることなく、レオを乗せて再び竜に迫った。
竜が攻撃を仕掛けようとするたび、その視界に入り、苛烈な攻撃を仕掛け、彼らは竜が船を襲う隙を与えない。
――これなら全軍、逃げられる。
誰もがそう思ったときだった。
――グルウウウウウウアア!!!
口ではなく、竜が燃えるような目で一艘の船をにらみつけた。その目から赤い光がほとばしる。
「な――……ッ!」
それは初めて見る攻撃だった。
口から吐くブレスではない、竜の一瞥もまた、溶鉄の熱線だった。
一直線に噴出した溶鉄がピースフルのガレオン船を二つに引き裂いた。
「教皇!!」
そう叫んだのは誰だったか……。
この場に居合わせた、すべての者の悲鳴だった。
ドロドロに溶けた鉄が瞬く間に甲板を舐め、帆から炎が上がる。
人々の注意がそれた瞬間を狙い、大災の竜は一気に上昇し、距離を取った。一瞬ためらうそぶりを見せたものの、竜は未練を断ち切るように反転する。そして不気味な羽ばたきを残し、嵐の向こうへと飛んで行った。
今や、動く者はいなかった。止めることもできず、誰もが見守る中、炎に包まれたピースフルの船はゆっくりと沈んでいく。
『竜はジルコンの光を恐れています』
船の方から、澄んだ声が静かに響いた。
教皇だ。最後の力を絞りだし、彼女がメッセージを発している。
『ジルコンを持つ者を世界から集めるのです。強い意志を持つ者たちが再び一つになれば、必ず竜を退けられるでしょう……』
その予言を残し、ピースフルの船は荒れた海に飲み込まれていった――。