NOVELS 小説
第8話
封じられし脅威
ブレイブの捜査員たちにとって、ここ最近の状況は形容しがたいものだった。他国同士の揉め事を招いてしまった居心地の悪さは常に彼らに付きまとう。廊下ですれ違いざま、探るような視線を向け合うピースフルとグローリーの面々にハラハラし、なんとかして事態の解決を図ろうとする日々が続いていた。
ただ、心理的な落ち着かなさはあれど、地下資料庫の存在は彼らにとって、大いに役立った。
このジークブルクがフリーダム前身の旧政府軍領地だったことは知られていたが、その時代にも競技祭が企画されていたことがわかったのだ。だが、何らかの原因により、企画は白紙と化している。
また、企画時には何度も旧政府軍の捜査員が地下に向かったという記録も残っていた。
「調査した結果、地下に何かあるのが分かり、競技祭を断念した、と見るのがよいだろうなッ」
リーチが言う。
「彼らが断念するような理由があった場合、『今回』はどうなるのでしょう」
ルミナが眉をひそめた。愛する弟の晴れ舞台のため、彼女はひたすら競技祭開催を願っているようだ。
探偵のルーナが冷静に言った。
「このまま競技祭を開くのは危険でしょうね。ですが、我々の中でもっとも事情を知っていたはずの競技祭実行委員長は殺されてしまったし……」
「俺たちで調べるしかないなッ。四か国合同で調査できればよかったんだが……」
「信じましょう。どの国も、平和への想いはきっとゆるぎないでしょうから」
ルーナが言う。はっきりとした口調だが、どこか祈るような響きを帯びていた。
***
同時刻、ピースフルの面々は聞き込み調査の末、厨房の料理長から気になる話をされていた。
「そういえば、サミット前に競技祭実行委員長が言ってたな。『この地にはヤテベオが根付いている』とかなんとか。駆除する方法を探していたぞ」
ヤテベオとは何なのかを調べるため、街に繰り出した彼らは露店でカルカンサイトの鉱石を発見した。
「ヤテベオと関係あるのか?」
ゼロ・アトラが首をかしげる。ジルパワーを発動させて鳥と視界を共有し、彼は周囲の状況を確認した。
「この石、ジークブルクの山で採れるみたいだ。洞窟のあちこちから巨大な結晶が突き出してる。まるで青い花が咲き誇ってるみたいだ」
「そんな石がたくさん取れる山と、この地に根付くヤテベオ……。関連があるとすれば?」
エレオノーラ・フォン・グレイの問いに、フランチェスカ・ロッシが考え込んだ。推理力や洞察力を一時的にパワーアップさせ、今ある情報から見えてくるストーリーを紡ぐ。
「カルカンサイトは、ヤテベオを閉じ込める檻。そういう可能性もゼロじゃない」
「もしそうなら、ヤテベオはカルカンサイトの採れる山の地下にいる……?」
「その可能性もあるって話。ただここで一つ問題が……」
皆の脳裏によぎる思いはおそらく同じだ。
迎賓館の料理長は「競技祭実行委員長がヤテベオを駆除する方法を探していた」と言っていた。つまりこの「ヤテベオ」なる存在は危険なのだ。もしかすると、競技祭開催が危ぶまれるほど。
「グローリーとの仲はいまだ最悪」
エレオノーラがため息をついた。
「わたくしたちの中に豚食開放レジスタンスがいるというのはおそらく本当だわ。しかもブレイブへ伝えた合言葉を聞かれたことで、グローリーの人たちはわたくしたちを信用してはくれないでしょう」
「ブレイブとの仲も良好とはいえないぞ。俺たちは『とある筋』から教えてもらった合言葉を言っただけだったが、どうやらあれはブレイブ側にとっては、漏れちゃならない情報だったらしい」
いったいどうしたらいいのか、答えは出ない。
今は自分たちにできることをしようと話し合い、彼らは取り急ぎ、カルカンサイトの結晶が大量にあるという山に向かった。