NOVELS 小説
第3話
実行委員長殺人事件
――競技祭実行委員長の遺体発見。
その報を受け、各国に激震が走った。
現場はジークブルクにある迎賓館。グローリーから来た代表者たちに割り当てられた控室だ。
遺体は床にうつぶせに倒れ、その背中には装飾のついた舶刀(カトラス)が刺さっていた。
「これは……」
グローリーの議長ウィリアムは言葉をなくした。まさか自分たちが直前まで使っていた控室でこのような蛮行が行われるとは。
「至急迎賓館を封鎖してください。四か国合同で捜査を行います!」
ウィリアムからとっさにその指示が出たのは、国の大評議会にて日々辣腕を振るっている経験によるものだろう。死体保存のジルパワーを持つ紳士リポウズが委員長の遺体を適切に管理すると申し出た。
今後捜査に時間がかかっても、委員長の遺体は腐敗することがないという。
それは頼もしいが、事件が解決したわけではない。むしろここからが重要だ。
「競技祭ってどうなるんだ……?」
どこからか不安そうな声が上がる。
控室にざわめきが広がった。四か国の集う「平和の祭典」で事件が起きたのだ。しかも責任者ともいえる競技祭実行委員長を殺した犯人はおそらくまだ、この迎賓館にいる。
委員長との個人的な怨恨だろうか。それとも誰かが、競技祭の中止をもくろんでいるのだろうか。
もしそんな者がいるとしたら、競技祭はどうなるのか……。
誰もが皆、その不安に駆られていた。「平和の祭典」が穢された今、人同士の争いが始まってしまうのではないのかと。
「むろん、一刻も早く解決して、競技祭を開くのですっ」
そのとき、凛とした声が響いた。皆の迷いを吹き飛ばすような晴れやかな声が、血なまぐさい部屋の空気をかき消していく。ウィリアムはほっと息を吐いた。
「オリシス様……そうですね。犠牲になった委員長のためにも、その遺志を継がなくては」
「そのためにも、出番ですよ、皆さんっ」
ピースフルのオリシスに促され、三人の男女が進み出た。
「あなた方は?」
「わたくしはエレオノーラ・フォン・グレイ。他人の感情や残留思念を一時的に読み取ることができます」
「ほう」
「俺はゼロ・アトラ。鳥を使役し、その視点を共有できる」
「フランチェスカ・ロッシです。ジルパワーで自分の能力やスキルを一時的に上げられます」
三人を前に押し出し、オリシスが宣言した。
「殺人事件の捜査において、彼らのジルパワーは有力ですっ。無論わたしも協力します。ともにこの事件を解決しましょうっ」
「そうですね。我々が力を合わせれば、できないことはありません」
なんといっても、自分たちはあの大災の竜を討ったのだから。
話し合いの結果、ブレイブとグローリーの捜査員が事件現場の捜査。ピースフルの面々は凶器となった舶刀の調査に乗り出した。フリーダムは周囲の聞き込み調査だ。
かくして四か国の捜査員たちは国の威信をかけ、殺人事件の全貌解明に乗り出した。