NOVELS 小説
第2話
サミット開催
二か月後、ついに各国の代表者がジークブルクの地に集結した。各々が自国にて考案した競技を持ちより、ルールを説明するサミットが開かれる。
今回、最高指導者が出席しているのはグローリーだけだ。他の指導者たちは信頼できる者に任せている。
その事情は様々だ。ピースフルの教皇はいまだ万全とはいえず、自国を離れて精力的に活動することは難しい。フリーダムの闘技場運営委員長コミッショナーは竜の脅威が去った今、これ幸いとThe Hole探索に出たままだ。ブレイブの女王ブレイブ・シャインは書類仕事が終わらないそうで、泣く泣く最大の側近リーチ・ド・パンクスを派遣してきた。
「いささか見劣りするかもしれんが、競技祭を成功させたい気持ちは大いにあるッ! 最大限盛り上げるぞッ!」
高らかに告げたリーチにグローリーの議場ウィリアム・グローリーは苦笑した。約三年ぶりだが、ブレイブが誇る「到達」の四天獅(クアドリオン)は相変わらずだ。熱血、熱闘、全力前進。正々堂々と戦う競技祭にピッタリの男だ。
「我々も負けませんよっ。日々マッスルで鍛えた我が英雄騎士団の団結力をお見せいたしましょうっ!」
ピースフルから訪れた英雄騎士団の団長オリシスが言う。
三国とも四大国合同競技にふさわしい人員をそろえている。
……唯一、自由の国フリーダムをのぞいては。
「フリーダムは……誰が代表なんでしょうか」
ウィリアムは首をかしげた。国内で最も影響力を持つコミッショナーがThe Hole探索に出たままだという情報は得ていたが、外交担当の大番頭や第二勢力「セイレーン」を組織するディーバスロードも来ていない。遠くの声を余さず聞くジルパワーを発動させてみても、誰が代表者なのか、よくわからない。
「まあ、この自由さこそがフリーダムの持ち味だッ。サミットが始まれば、おのずと分かるだろう」
「ええ、ええ、そうでしょうともっ。皆さんも大いにご期待くださいっ。ピースフルの競技はひときわ壮大ですからっ!」
「ほう、ブレイブも負けてはいないぞッ!」
明るく、さわやかに、それでもまっすぐ火花が散る。此度の競技祭の成功を約束するようなやり取りに、ウィリアムも表情を和らげた。これなら誰もが互いに尊重し合い、絆を深める大会になるだろう。
「そろそろ準備の時間のようです。皆さん、控室に戻りましょうか」
「ああ、そうするかッ!」
「はいっ、また後でお会いしましょうっ」
互いに挨拶を終え、それぞれの国に割り当てられた控室へ向かう。
……彼らは知らなかった。まさにこのとき、邪悪な企みがひそかに進行していたことに……。
時間が過ぎ、ブレイブの控室に競技祭実行委員長が現れた。色鮮やかなシルクハットにハート形のサングラスをかけた、浅黒い肌の男性だ。帽子についている白薔薇や耳元を飾るハート形のピアスからして、洒落者であることがうかがえる。
「どうも! 『競技祭実行委員長』です! これから4カ国サミットを開催いたしますので、みなさまは控室から発表会場へ移動をお願いします!」
実行委員長はその数分後、ピースフルの控室を訪れた。
「どうも! 『競技祭実行委員長』です! これから4カ国サミットを開催いたしますので、みなさまは控室から発表会場へ移動をお願いします!」
さらに数分後、フリーダムの控室のドアを叩いた。
「どうも! 『競技祭実行委員長』です! これから4カ国サミットを開催いたしますので、みなさまは控室から発表会場へ移動をお願いします!」
最後に数分後、グローリーの控室に実行委員長が現れた。
「どうも。『競技祭実行委員長』です。これから4カ国サミットを開催いたしますので、みなさまは控室から発表会場へ移動をお願いします」
各国の代表者はそれぞれの控室を出て、サミットの発表会場へ向かう。
……そして数時間後、事件が起きた。競技祭実行委員長の変わり果てた遺体が、グローリーの控室から発見されたのだった……。